「これ以上は無理です」と言えないあなたへ どうしても伝えたい大切なお話【沼田和也】
弱音をはく練習〜悩みをため込まない生き方のすすめ
拙著『牧師、閉鎖病棟に入る。』で、わたしは同じ部屋の16歳の少年のことを回想している。彼は妹を金槌でなぐり、措置入院となっていた。他にも家庭環境に重い問題を抱えた少年や青年たちが、そこにはいた。わたしから見て、彼らは正直言って、放置されているように見えた。もう何年も前から入退院を繰り返しているであろう彼らは、読み書き計算、つまり義務教育で最低限学ぶはずの知識を得る機会を奪われていた。彼らがわたしとの出会いのなかで「勉強したい」と言いだしたとき、わたしは病院側に学習スペースの許可を求めた。だが病院側からは「ここは学校ではありませんので」の一言だった。彼らはただ病院で若いエネルギーを持て余しながら時間を潰し、きつい副作用のある薬を投与されている日々を過ごしている。そんな彼らが、今後どうやって社会に適応することができるのかと思うと、わたしは気が重くなったのであった。
修復的司法という言葉がある。法を犯した者が服役中に、自分はなにをしてしまったのか、相手がどれほど傷ついたのかを、カウンセリングなどをとおして自覚するプロセスを踏む。自己に閉じていた元犯罪者を、他者のいる世界へと開いていくのである。それは元犯罪者独りでできることでもないし、そのプロセスが必ず成功するという保証もない。
だが、わたし自身、ある意味で修復的司法に近い体験をして、社会に復帰したという自覚がある。わたしはなぜキレてしまったのか。なぜ、ストレスを溜め込んでいるという自覚を持つことができなかったのか。そのすべての答えを得られたわけではない。今でも模索は続いている。ただ、疲れやストレスを封じ込めて誰にも言わないのではなく、封じ込めようとするのはなぜなのかと自分自身に問い、周りの人にも打ち明けることができるようには、ようやくなれたのである。
文:沼田和也
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沼田和也著 最新刊
『弱音をはく練習 〜悩みをため込まない生き方のすすめ』
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目次
序章 弱音をはく練習
弱音をはく練習が足りていないあなたへ
第1章 自分で自分を追いつめないために
「もうこれ以上は無理です」
生きていく意味が分からなくなったとき
第2章 生きづらさの正体を知るために
ある日突然、学校に行けなくなった
ひきこもりだった当事者が語れること
生きづらさの原因は「心」?
第3章 嫉妬心で苦しまないために
コンプレックスを手放さないという選択
他人と比べて嫉妬に苛まれるとき
他人を羨み、悔しくて仕方がないとき
第4章 人間関係を結び直すために
人間関係に疲れきってしまったとき
ため息一つを共有してもらえたなら……
S N S 時代は「別れる」ことが容易でない
第5章 憎しみに支配されないために
怒りや憎しみを無理に手放さなくてもいい
対人トラブルを起こしてしまいがちな人の共通点
「我が子をどうしても愛せない」と慟哭する女性
D V 被害者が虐待を繰り返されないために
第6章 性的な悩みに苦しまないために
「不倫をする人」を断罪しても仕方がない理由
性的な悩みは公の場では語られない
「わたしは男/ 女です」と言いきれない人からの手紙
「よけいなお世話」によって救われてきた経験
第7章 理不尽な社会を生きるために
リストラ・ハラスメントに誰もが遭遇する時代
この苦しみは他人のせいか? 自分のせいか?
死にたくなるほどお金に困っているとき
第8章 孤独な自分を見捨てないために
なぜよりによってわたしが苦しむのか?
子どもの頃によく見た「死刑の夢」
無駄で面倒なことに、幸せは宿っている
「自分自身の物語」をつくり、その読者になる
第9章 他人と痛みを分かちあうために
「ずるい」という想いを認めることから
人は何歳からおじさんやおばさんになるのだろう?
不純な動機で善行をするのはだめ?
終章 弱音をはきながら生きる
他人を妬む気持ちはなくならない